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『二宮尊徳に学ぶ成功哲学』編集にまつわるアレコレ話《第6回 学歴のない露伴が大文豪になれたヒミツ?の場所(2)》
【第6回】学歴のない露伴が大文豪になれたヒミツ?の場所(2)
当時の公立図書館は、今からは想像できないほど様相を異にしていました。そもそも、露伴が少年だった時代に、初めて公立図書館が日本で誕生したのです。
日本初の公立図書館は、明治5年(1872年)に設立された書籍館(しょじゃくかん)です。その後、東京書籍館と改称されたり、所管が変わるなど紆余曲折を経て、一度閉館。明治13年(1880年)7月に東京図書館の名で再スタートします。
場所はずっとお茶の水の湯島聖堂・大成殿(たいせいでん)でした。なお、この図書館が母体となって今の国立国会図書館があります。
この当時の本は、旧昌平坂学問所の漢籍など、和綴じの本がメインで、図書館にある本も同様に和書です。
そのため、現代の図書館に見られるような、本棚に本が並ぶスタイルではありません。和綴じの本は書名を示す背表紙もなく、本自体がやわらかいため、立てておけないのです。
そこで当時の図書館は、書庫に和書を横積みに保管しておき、利用者のリクエストに応じて図書館員が探して持ってくる方式でした。当時の様子を露伴の弟子にあたる塩谷賛が次のように詳しく記しています。
「(露伴は)そこでは経書でも諸子でも異端の書でも何でも読んだ。図書館は文部省の所管で東京唯一のものであった。聖堂の大成殿が書庫で左右の廻廊が閲覧所となっていた。入口の杏壇(きょうだん)をはいったところに司書がいて書物の出し入れをした。紙がなければ紙を、鉛筆を持たなければ鉛筆を出してくれ、電燈はまだないので暗くなると多くの西洋蠟燭(ろうそく)を使丁が配って歩き、それに火をつけて書を読むという具合であった。露伴はいつも弁当を持ってやって来た。弁当の茶も供せられた」(塩谷賛著『幸田露伴上』中公文庫)
この文章そのものが貴重な時代考証の資料になると思われますが、ともかく露伴にとって東京図書館は、限りなく魅力的な場所だったのではないかと思います。
当時としては最先端の知的集積場だったはずです。夜10時まで開館していたことも、驚きです。
ところで、そんな露伴と図書館との関わり合いを時系列で見ると、不思議なことが見えてきます。
露伴少年が来るのを待って再オープンしたかのような図書館
まず、露伴が最初に図書館を利用しはじめたのは、明治13年(1880年)、14歳(数え年)ごろのことです。つまり一ツ橋の東京府第一中学を中退した直後のことです。
このタイミングで、閉館されていた東京書籍館が東京図書館と改称して再びオープンになったのです。
しかも利用料金は無料(書籍館として創設時は有料制でした)、さらに露伴少年が家から歩いて行けるという便利な立地条件でした。
さらに東京図書館で露伴は、彼の人生の方向性を決める貴人と出会います。
その人物は淡島寒月(1859~1926)です。露伴より8歳年上の作家兼画家で、趣味人でした。やがて露伴は寒月の家にも遊びに行くようになります。寒月の家には大量の蔵書があり、図書館にもないような貴重な書籍と露伴は出会います。
この寒月が、のちに露伴を文壇にデビューさせるきっかけをもたらします。後々ですが、寒月が露伴の作品を出版社に持ち込んだため、処女作が出版されることになったのです。
翌年(明治14年〔1881年〕、15歳)、露伴は銀座の東京英学校に入学します。今の青山学院の前身です。しかしここも、翌年、退校。そして引き続き東京図書館通いが続き、明治16年(1883年)8月、電信修技学校(芝汐留)に入学します。
電信修技学校を選んだ理由は「給費生となって自ら支えたる也」ということで、経済的に自立したいという思いがあったのでしょう。電信の世界は当時としては超最先端の世界です。
露伴の図書館通いは19歳の夏にいったんとまります。電信技手として北海道に赴任するためです。
不思議なことに、露伴が東京を出発する時に、東京図書館は湯島聖堂から上野に移転します。そして無料制から有料制になり、利用を学者に限定することとなるのです。
露伴が必要とする切実なタイミングに立派な勉強場所が用意されていくかのような、見えない仕組みを感じます。

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二宮尊徳に学ぶ成功哲学
富を生む勤勉の精神幸田露伴 著/加賀義 現代語訳
第一章 二宮尊徳
第二章 自助努力で道を切り開け購入する